サンタおるじゃろ!

”その昔サンタなんて居ないと聞いた時
「なんでそんな回りくどい嘘を続けてるんだろう?」って 
今んなって時間たって少しわかるよ
きっとみんな信じてんだ本当はいつか来んのを”

鷲崎健「I Love You」のある世界)

 

 

「I Love You」のある世界

「I Love You」のある世界

 

 

もうすでに遠い記憶。

11月26日萌えサミット7でした。

私はメインステージの司会を担当しました。

声優のトークイベントの司会をしたなんて今思い返してみても、あり得ない。

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坂上秋成の『獣を見たらすぐに撃て』が頭にあって。

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女性声優が主人公の多人称小説。声優ファンには刺さると思う。


 ナチュラルに崇めてしまっている声優という存在の大きさについて考えたりしつつ。ぶち凄い競争をくぐり抜けてるんじゃねぇ。と関心したりしつつ。

 

↓当日の感想をあれこれ述べております。 (萌えサミ放送局 第30回)

 https://youtu.be/UoIhwzDO3yk

 

やはり、ステージ上では圧倒された。
前日、眠る前に「明日一日だけ鷲崎健にならねぇかな」と願った。(※鷲崎健は声優イベントを必ず盛り上げる事ができる司会者)ならなかった。

同じステージに立って、司会をして、不思議な感覚を掴めた。その感覚はおそらく詩になるだろう。

 

私がまだ小さかった頃、母に
「お母さん声優になりたかったんよ」
と言われたことをよく覚えている。
「は? 西友? ザモール周南?」
とボケではなく本当に知らなかった。

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まさか人がアニメに声を当てているなんて!
夢から覚めた絶望をよく覚えている。
ドラえもんドラえもんだろ! だましたな! サンタクロースはおるじゃろ!
 
 時は流れまくり、今や声優が表にでることは当たり前になった。そして、私なんかが声優イベントで司会をやる機会に恵まれるまで一般化している現状は感慨深いものがある。

この貴重な経験は次回作
『けものを見たらすぐに萌え』
にて活かされる事だろう(書かねぇよ!)。

2017年 文フリ福岡 詩ぬなよ

文学フリマ福岡でした。

もう2週間前ですか。私は風邪をひいて乗り越えるのに必死でした。

健康大事。

 

詩集まにあいませんでした。
期待されてた方(居ないと思うけど)すいませんでした。

詩ともかく詩集は私にとってものすごく難しく、書くときはもうポロっと専用のノートに鉛筆で書いて放置しておくのですが、編集作業がもうこれがキリがなくてなんだかよくわからなくなってしまいました。

数だけは沢山あって、いくつか気にいってるやつもあるのですが、自分が納得いく詩になっていないと判断しました。
書き手としての我が儘な自分に対し、編集する自分が「こりぁだめじゃぁ」となりました。厳しい編集者でした。

 

今回は会場が前回までと違い、地下鉄から直接行ける好立地でした。ありがたい。
新幹線降りてからの人の多さに若干疲弊。
久しぶりの地下鉄に疲弊。

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開始直後から人が多くてびっくりしました。
確かに、自分が一般参加者だったら完売してるわけない11時に行って、気になるところを巡って、見本誌コーナーみて、また巡り、同じビルのご飯屋さんのどこかで昼食をとり、戦利品を読みつつコーヒーを飲んで、読み終わったらもう感想を言いに行く、という流れですかね。


理想の休日の過ごし方じゃねーか。


離れ部屋問題が解決できたのは本当によかった。しかし、ブースを確保しながら不参加のサークルが多いように感じたのは単に自分の知ってるサークルが来てなかっただけ? だと思いたい。

一応既刊を持っていくのと企画はやりました。
清き一票を投票して下さった皆さんに感謝です。当選したら、まず、行政をゆがめたり、不倫したり、浮気したり、失言したり、反省したり、無所属になったり、不正に得たお金で同人誌をアホほどゲットしようと思います。マニフェスト(嘘)です!


ずっと隣のサークル「雉子の巣」のぶるーさんと話しておりました。お世話になりました。夏目漱石の弟子・小宮豊隆のことを漫画にした本を制作されておられます。昨年もブースが隣でした。

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私の文学的守護神・嘉村礒多が小宮さんにお世話になってまして。安倍能成を経由して小説のアドバイスを貰ったそうです。それがどんな内容だったか知りたいですな。
 ぶるーさん曰く「辛口批評だったのでは?」とのことでした。
 めっちゃありうる。

 

今回ゲットした本は少なめです。

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 その後、タワレコをふらつき、懇親会へ。
 何にせよパスタの器がおしゃれでした。

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 いろいろと話したけれど大雑把には。
 働きつつ、もしくは学生しつつ文芸同人活動をやるには、ものすごく健康でないといけないが、健康だと文学的なドロッとしたものは描けなくなる。逆にニートだと、びっくりするほど不満が無くなるという二律背反と戦わねばならないこと。
 まあ、それでも毎日コツコツやるしかなく、一日だけ奇跡的に文章が巧くなるわけでもなければ、文フリの日だけ自分の本の良さを説明するのが巧くなることもない。というくそつまらない当たり前があきらかになってしまいました。

あと、職場で詩を思いついてメモした紙を落とすとわりと死ぬよね。詩ぬ。

懇親会でも投票してもらいました。何を書くか悩む人も居れば、即決の人もいました。

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懇親会は各テーブル盛り上がってましたね。
スタッフの皆さん本当にお疲れ様でした。

 

あとついでに告知なのですが、12月3日(日)に嘉村礒多生誕120年を記念するイベントをやることになりました。場所は礒多の故郷、仁保です。仁保地域交流センターという道の駅に隣接した公民館のような場所で開催します。
礒多の生誕に関するエピソードの紹介や、朗読や、私が礒多をテーマにした曲を披露したりします(?)

まあ、つまり、曲をですね。久しぶりにアコギを持ってあれこれやったりしております。
相変わらず泣くほどギター下手だな。
詩集まに合わねぇよそれは。無理があるよ。

よろしくお願いします。

「ユポ紙に好きな言葉を書こう(仮)」

10月8日(日)の福岡の文学フリマに参加します。

ブースは【う−40】です。

 

いつもの嘉村礒多選集と、新しい詩の本を作って持って行く予定です(間に合いますように)。

 

前回作った詩集『水にしたたる』は知り合いに献本したり有難いことに買って頂いたりしてたら、いつの間にかなくなっていました。

なので『水にしたたる』は今のところ持って行くつもりはありません。

 

今日急に文学フリマ福岡でやる企画を思いつきました。

なんかもう色々とウンザリしたので勢いでやります。

題して「ユポ紙に好きな言葉を書こう(仮)」!

えーと、選挙やるみたいですね。

選挙といえば投票。投票といえば投票用紙。ユポ紙です。

あの描きやすいサラサラした丈夫な紙に鉛筆で、書くのが妥協と諦めの結果というのもなんだかつまらないので、君の好きな言葉を書いてよ! という企画です。

文フリ当日、名刺サイズくらいに切ったユポ紙と鉛筆と投票箱(とにかくなんか箱)を持って行きますので、座右の銘でもなんでも自由に記入して投票して下さい。

それらの言葉を持ち帰りまして、私は何かしらの作品を作ります。

小説か、詩か、まだ謎ですが、とにかくなんか作ります(まだ決めてない)。

投票というよりなんか、お題募集みたいな感じですし、どうなるやらやってみないとわかりませんが、なんだかとても腹が立っているのでやってみます。

今は、ほんと思いつきでバーっと書いてるので、後で冷静になって「あ、これ無理だわ」となるかもしれませんがとりあえずそんな感じです。

よろしくお願いします。

無料配布とかマジかよ『Wanna be?』

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 ラウシズムの新刊はまさかの無料配布だった。よって、たまたま手にしてしまったラッキーな人も、なんなのかよくわからない人も居たことだろう。


『Vertigo』
「聴く」ことがテーマの一編。ラウシズム日谷が目指す「川口文学」の一端を垣間見ることが出来る。
 主人公の近衛は、性別すら判然としない。そして「大迫」という人物の死がまるで曲のサビのように何度も繰り返される。
 近衛本人には、とくに何も起こらない。ただ、近衛が生きる過程で、誰かに起きた出来事を「聴く」のである。近衛には周囲のさまざまな出来事が蓄積してゆく。『Retold』(Brilliant Failure収録)では、物語を想像し、会話から膨らませてゆくことがテーマだったが、この作品は近衛が出来事(物語)を受け取り、眺めるだけで受動的だ。特に目的もなく日常を過ごしているように見える。
 しかし、周囲に全く無関心というわけでもない。近衛の周辺では事件性の高いことから、なんてこと無い過去まで、さまざまな物語で溢れてゆく。
 アルバイトの同僚・佐藤の子供が行方不明になったり。小学校時代の同級生が金を借りにきたり。秋葉原では高校生が爆破事件を起こしたりといった、いかにもありそうな日常と事件がひたすら並べられてゆく。
 この作品で重要なのは、「書かれていないこと」である。近衛については殆ど書かれない。なんで今の職場で働いているのか、どういう経緯で川口市に住むことになったのか謎のままである。
 逆に川口市については、ウィキペディアの情報が引用されこれでもかと言うほどに畳みかける。しかし、川口市について何も語ってはいないように感じてしまう。ただ単に情報を並べただけでは場所に愛着がもてないことを証明しようとするみたいに。
 近衛について触れないことで、読み手には想像する余地が与えられることになるが、そういう気にさえさせないほど、つまり物語を創造させないほど情報が少ない。
 情報や物語の量のコントロールは、小説として歪(いびつ)で不完全だが、失敗したのではなくあくまで意図的に行っているのだろう。
 断片的な情報や物語を受け取った後の読み手の想像力が試されるのを感じるが、私はおちょくられている気がしてやや不快である。しかし、こういった不快にさせる小説があってもいいとは思う。この小説に私が不満だ、ということは、私自信ははもうちょい情報量が多い作品を書きたいのだろう。

 このテイストで何作か書き続けていけば、ものすごい小説が生まれると信じている。私の個人的な好みなど気にせずにこのまま走り続けてほしい。

 『Sympathy』
 悪魔のスタヴローギンと天使のラズミーヒンの掛け合いが微笑ましい短編。
 時間軸として、前作のあとである。
 炬燵は正義。
 異論はない。

Scarecrow
夢から覚めない夢が描かれる掌編。覚めても覚めても夢というのは確かに怖くはある。しかし、私が今こうしている現状が夢ではないと誰が言い切れるであろうか? 的なことを考えたことがある人ばかりが文学フリマにはいる。
 短いから試し読みにはうってつけの作品。

 冒頭にも書いたように無料配布だったのだが、収録作品の取っつきにくさから狂気の沙汰である。無料であったところで読んでくれる人がいて、なおかつ感想を書いてくれる人がいるであろうか?
 一体何をやりたいどんな小説なのか、知られぬままに放置されやしないかという不安に駆られて遅れはしたがざっくりと感想を書いた(下書きを書いてUP忘れていた)。
 無料配布でゲットした幸運な人はぜひ手に取りページをめくって欲しい。
 
 よくよく見たら、表紙の写真が逆さまだけどなんか意味あるのかな?

「彼は私小説の極北と称されました」

初めて嘉村礒多のことを知ったのは、なんてことないローカル番組だった。

 

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確か10年くらい前、山口県にゆかりのある作家を紹介する短い番組。
「彼は私小説の極北と称されました」
アナウンスがそう言っていたことがやけに耳に残った。

 


その後、礒多の講談社文芸文庫を手に入れるものの、最初の2編で挫折してしまう。
 読みにくい!

 全くの別件(確かゆずのコンサート、その頃ファンだった)で東京に行ったとき、神保町に行き思い切って全集を購入。
こっからが本番だ! 読むぞぉ! 読む! 

積む(放置)!

結局、読み始めたのは、2013年にニートになってからだった。
タイミングよくセミナーがあり、課題の小説以外の全ての作品を読む。

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(父がニート息子に持ってきたチラシ)

 

染みる染みる。クソみたいな男の、ネガティブな想像力と無様な反省が染み入る!

そして全集は字が大きくて読みやすい! 

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 あの頃、私は辞めたブラック企業のおかげで、精神的にかなり落ち込んでいた。
 礒多の小説は、そんな自分の為に作品を書いてくれたのではないかと思うほどに、自分の精神状態にぴったりだった。

 礒多は駆け落ちしたことが大きく捉えられがちだが、その前の在郷時代の苦しみもまた計り知れない。高校中退で野良仕事もろくにできず、全く自分に自信が持てない男が、よくコネもない状態から、文学者として名を残せたと思う。

 

 その後、私はもっと沢山の人に読まれるべきだと思い、文学フリマでの礒多本の頒布を決意する。しかし、同人誌を作るのにもお金がかかる。礒多のように親の脛を齧り尽くすのに抵抗があった私は、また働くことを決意する。


 結果、働く方に大きく己の力を注いでしまい大失速。バランスを欠いたサークル活動になっている。

 確実に言えるのは、礒多の小説がなければ私は自立できず、未だにニートだったろうということだ。
 嘉村礒多の小説には、ニートだった自分に顕彰活動をさせるだけの力はある。
そういう力のあるネガティブな作品が、あなたにも何かしらのポジティブをもたらすのではないかと、淡い期待を抱いている。
 そうして現在の「文学」が少し進むと信じている。という洗脳に日々勤しんでいるのだ。
 自覚的に自分を洗脳でもしないとやってらんねえよ。

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ノマドぶりたい2017年春。都内某所にて。

ドヤ顔で自慢しよう『LET IT GREET』

『LET IT GREET』
 日谷氏の大学時代後半とその後の埼玉生活から紡ぎ出された作品群。

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 ちなみに改訂前と改訂後では納められている作品が違う。シングルを3種類リリースしてカップリングが異なります的なあくどい商法をしようというのではない。
 問題は改訂版には収録されていない作品を評価したい私の気持ちである。
 
青い月、黒猫、赤い髪


ーー近所の高校のグラウンドに忍び込んで、満月の、真っ青な御月見に洒落込むことになったーー

 夜の高校に忍び込む男女を青い月明かりがただ照らす。風景の描写が細かくて、美しさをみせながらも、主人公はどこか冷めている。冷めた視線と彼の赤い髪は全く重なっていない。むしろ、青い月の光に近い。
 黒猫の鳴き声がリアル。

『Come As You Are』
 主人公の修一は八畳ほどのアパートに兄と姉と三人で暮らしている。彼の居場所はそのロフト。狭っ苦しいことの居心地の良さは、修一が置かれている立場のメタファーである。
 この状況に至るまでの過程が詳細に描かれていないあたりを許せるかどうかで、好みは分かれるだろう。
 ぜひ、狭い場所でひっそりと隠れるように読んでほしい。


紫陽花


ーー葬式から一ヶ月も経てば私は時々、母親が死んでいることを忘れたーー

 大学生の妹は急に下宿を尋ねてきた兄と箱根に行く。兄は小雨降る箱根の景色を撮影する。妹は母の死を受け入れつつある。
 箱根に行ったこともないのに行った気にさせるやさしい短編。
 箱根駅伝に選手として参加して読んでほしい(冗談だよ)。
 
『徒歩三分』
 珍しく私小説的に描かれた作品。一瞬ブログの文章かなと思った。きちんと小説である。
 日常の「詰まらなさ」にスポットが当てられる。 埼玉県川口市という場所を舞台に、著者が何を描きたいのかが、なんとなく理解できる掌編。

 

『四万キロメートルで挨拶を』
 大学文学部の卒論あるあるが詰め込まれているので、文学部で卒論を書いた人は共感できるかもしれない。
 私は、主人公・大学生の新條が食べるキウイフルーツのくだりが好きだった。田舎では大量にキウイフルーツが採れたりするのだ。ニュージーランドで鳥の方のキウイも見たことがある。
 部分的におもしろいところはあるが、全体通して見ると、個人的には消化不良な感じが否めない。誰か読んで解説してくれないか?
 

(おまけ)『墓を掘る、死体を焼く』  
 改訂前に納められていた一作。フラグメンツ収録《箱》の元となった作品らしいが、こっちの方が面白かった。
 墓を掘る人。焼く人。そしてもう一つの視点が加わったことで、ぐわっと広がっている。何処かのサイトで読めるようにしといたら(してたらすいません)ラウシズム入門にもってこいである。

 

 私が読んだラウシズム作品について、後半はめっちゃ駆け足ではあるが振り返ってみた。

 ぜひ第24回文学フリマ東京で

【A-18】

に来たら、全ての本をゲット。ついでに無料配布の

『Wanna be?』

までを5月中に読了し感想を著者にメール、もしくはブログまたはSNSに書いて(否定的な意見でもいいと思う)、ラウシズム日谷はわしが育てたとドヤ顔で自慢して頂きたい。

 今ならまだ間に合う。

神った『SIDEWALKERS』ポリフォニー

『SIDEWALKERS(サイドウォーカーズ)』

 かなりエグい5作品が収められている。

 過激な内容でも全然、大丈夫、むしろ大好物という方にオススメ。

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『The Night with Love and Laughter』

この作品は数あるラウシズム作品の中でも特に異質なので、先入観の全くない状態で読んでほしい。よって、私の雑感は白い色で書いておく。

設定はどうあれこの作品は失敗してないか?
という話を日谷氏にはした。

しかし、大変難しい実験に果敢に挑んだ成果の一つとして前向きに受け止めたい。

私の数少ない好きなバンドの一つ「髭(HiGE)」の「檸檬」という曲がぴったりすぎて怖い。

 

『Satisfaction』
 ーー津村は自分の人生を振り返ってみて、殆んど辛い記憶が思い出せなかった。幸福な記憶も殆んど思い出せなかったが、彼はこの平穏無事な人生に至極満足していたーー

 同棲生活を描く作品は著者の手癖のようなもので、ついやってしまうらしい。
 しかし、この作品はそれなりにまた違った結末に至る。
 満足している主人公・津村のところに転がり込む18歳の千暁(チアキ)と後から紹介される隆明。隆明は別の女子大学生の家に居候している。

 別々の家に寄生する若い男女に食事と寝床は与えつつも、津村は無関心を貫く。
ーー津村さんは、とても親切な人です、とどうにかして青年は言葉を言い切った。
「有り難いね」
「親切ですけど、きっとどうでもいいんでしょう?」
 津村はふっと、反射的に、頬の筋肉が強張る野を感じた。
 その緊張が解けるとまた自然と柔和な表情が現れてきたーー
 
 隆明は言うなれば千暁のヒーロー的な存在である。素直であるが故に自分への悪影響を全く考えず彼女のために何でもしてしまう。
 津村は言わば彼女からの迷惑を渋々ではあるが、淡々と受け入れてしまうラノベ主人公に近い。助けはするが、過度に関わろうとはしない。それは、彼が「満足」しているからだ。
ーー俺は一体、何に対してどうでもいいんだろう? 世界に対してか? それとも、自分自身に対してか? それすら自分自身では掴みかねていたーー
 ヒロインに対する無関心を極限まで高めるとこういう人間が現れる。
 その「どうでもいい」が「満足」から出発していることは、中途半端な絶望や諦観よりも遙かにタチが悪い。

 

『Lark's Tongues in Aspic, Part Two』
 三作目もかなり設定に既視感があった。
 前作『Vacant World』と設定は、ほぼ同じである。繋がってはいないらしいが、『Vacant World』の後にこのエピソードがあってもおかしくはない。
 『Satisfaction』でも使われた「リモコン」が作中の物語を動かすキーアイテムとして効果的に登場する。
 青年が抱いてしまうのは、先輩を完全に理解したい欲求である。それは、相手を意のままに征服したい、コントロールしたい欲求へと繋がってしまう。
 いつの間にか場面が変わっているあたり、少し読み手へのハードルが高いかもしれないが第123回芥川賞の『しょっぱいドライブ(大道珠貴)』が読めた人なら問題ない。

 

『How to Dismantle Virginity』
四作品目を読み終わったときに感じたの「すげぇな」だった。単純にそう思った。
 視点が転々とする。確かに、日々ニュースで知らされる事件一つとってみても、多くの人に影響があり、そこここで人間関係の事故が多発している。はずである。
 最初に描かれる場面から最後に描かれる場面までの流れがものっそい綺麗である。
 女子高生の仲良し三人組ーー相沢・峰葉・黄地(おうじ)ーーのうち黄地が殺される。
 相沢が、学校に通えなくなった峰葉を励ましに行く所から物語は始まる。
 死体の第一発見者である大貫は自分が死ぬ間際に、そのときのことをまざまざと想起する。
 殺された黄地の妹は、刑務所から届く犯人の謝罪の手紙を読み続ける。
 相沢の大学時代の後輩・畝張は社会人になって先輩とのことを振り返る。
 そして、峰葉は物語を鮮やかに締めくくる。
 
『Conturing the Whirlpool
五作目。なんだこれは。と思った。
 私はてっきりこの作品が一番新しい作品だと思ったが、これが初めて書いたそこそこ長い作品だという。

まじか。

これまでの作品はこの作品を細かく刻んだ物を小出しにされていたのか、と思うほどには完成している。
 なんだよ、小出しにすんなよ。


 これを超える作品というのは、著者本人にとってもハードルが高いだろう。
 『How to Dismantle Virginity』はたまたま上手くいった感じがあるが、これは自力できっちり仕上げたという印象。
 古本屋「青樹書店」の無関心な店主を中心にした物語。
 文学に明るい大学生・新一の視点が、より物語を複雑に多面的に彩る。
 阿部和重を読むよ、という人には是非読んでほしい一作。

 正直に言ってしまえば、私はラウシズムの本の中でこの本がダントツで面白いし好きだ。これまでの彼の作品群が霞んでしまうほどにぶっちぎりである。
 色々、読みたいけどどれにしようか悩むならこれだけでもいい。
 『Conturing the Whirlpool』と『How to Dismantle Virginity』を超える作品を待ってます。
 読めばあなたも待ちたくなるさ。