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神った『SIDEWALKERS』ポリフォニー

『SIDEWALKERS(サイドウォーカーズ)』

 かなりエグい5作品が収められている。

 過激な内容でも全然、大丈夫、むしろ大好物という方にオススメ。

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『The Night with Love and Laughter』

この作品は数あるラウシズム作品の中でも特に異質なので、先入観の全くない状態で読んでほしい。よって、私の雑感は白い色で書いておく。

設定はどうあれこの作品は失敗してないか?
という話を日谷氏にはした。

しかし、大変難しい実験に果敢に挑んだ成果の一つとして前向きに受け止めたい。

私の数少ない好きなバンドの一つ「髭(HiGE)」の「檸檬」という曲がぴったりすぎて怖い。

 

『Satisfaction』
 ーー津村は自分の人生を振り返ってみて、殆んど辛い記憶が思い出せなかった。幸福な記憶も殆んど思い出せなかったが、彼はこの平穏無事な人生に至極満足していたーー

 同棲生活を描く作品は著者の手癖のようなもので、ついやってしまうらしい。
 しかし、この作品はそれなりにまた違った結末に至る。
 満足している主人公・津村のところに転がり込む18歳の千暁(チアキ)と後から紹介される隆明。隆明は別の女子大学生の家に居候している。

 別々の家に寄生する若い男女に食事と寝床は与えつつも、津村は無関心を貫く。
ーー津村さんは、とても親切な人です、とどうにかして青年は言葉を言い切った。
「有り難いね」
「親切ですけど、きっとどうでもいいんでしょう?」
 津村はふっと、反射的に、頬の筋肉が強張る野を感じた。
 その緊張が解けるとまた自然と柔和な表情が現れてきたーー
 
 隆明は言うなれば千暁のヒーロー的な存在である。素直であるが故に自分への悪影響を全く考えず彼女のために何でもしてしまう。
 津村は言わば彼女からの迷惑を渋々ではあるが、淡々と受け入れてしまうラノベ主人公に近い。助けはするが、過度に関わろうとはしない。それは、彼が「満足」しているからだ。
ーー俺は一体、何に対してどうでもいいんだろう? 世界に対してか? それとも、自分自身に対してか? それすら自分自身では掴みかねていたーー
 ヒロインに対する無関心を極限まで高めるとこういう人間が現れる。
 その「どうでもいい」が「満足」から出発していることは、中途半端な絶望や諦観よりも遙かにタチが悪い。

 

『Lark's Tongues in Aspic, Part Two』
 三作目もかなり設定に既視感があった。
 前作『Vacant World』と設定は、ほぼ同じである。繋がってはいないらしいが、『Vacant World』の後にこのエピソードがあってもおかしくはない。
 『Satisfaction』でも使われた「リモコン」が作中の物語を動かすキーアイテムとして効果的に登場する。
 青年が抱いてしまうのは、先輩を完全に理解したい欲求である。それは、相手を意のままに征服したい、コントロールしたい欲求へと繋がってしまう。
 いつの間にか場面が変わっているあたり、少し読み手へのハードルが高いかもしれないが第123回芥川賞の『しょっぱいドライブ(大道珠貴)』が読めた人なら問題ない。

 

『How to Dismantle Virginity』
四作品目を読み終わったときに感じたの「すげぇな」だった。単純にそう思った。
 視点が転々とする。確かに、日々ニュースで知らされる事件一つとってみても、多くの人に影響があり、そこここで人間関係の事故が多発している。はずである。
 最初に描かれる場面から最後に描かれる場面までの流れがものっそい綺麗である。
 女子高生の仲良し三人組ーー相沢・峰葉・黄地(おうじ)ーーのうち黄地が殺される。
 相沢が、学校に通えなくなった峰葉を励ましに行く所から物語は始まる。
 死体の第一発見者である大貫は自分が死ぬ間際に、そのときのことをまざまざと想起する。
 殺された黄地の妹は、刑務所から届く犯人の謝罪の手紙を読み続ける。
 相沢の大学時代の後輩・畝張は社会人になって先輩とのことを振り返る。
 そして、峰葉は物語を鮮やかに締めくくる。
 
『Conturing the Whirlpool
五作目。なんだこれは。と思った。
 私はてっきりこの作品が一番新しい作品だと思ったが、これが初めて書いたそこそこ長い作品だという。

まじか。

これまでの作品はこの作品を細かく刻んだ物を小出しにされていたのか、と思うほどには完成している。
 なんだよ、小出しにすんなよ。


 これを超える作品というのは、著者本人にとってもハードルが高いだろう。
 『How to Dismantle Virginity』はたまたま上手くいった感じがあるが、これは自力できっちり仕上げたという印象。
 古本屋「青樹書店」の無関心な店主を中心にした物語。
 文学に明るい大学生・新一の視点が、より物語を複雑に多面的に彩る。
 阿部和重を読むよ、という人には是非読んでほしい一作。

 正直に言ってしまえば、私はラウシズムの本の中でこの本がダントツで面白いし好きだ。これまでの彼の作品群が霞んでしまうほどにぶっちぎりである。
 色々、読みたいけどどれにしようか悩むならこれだけでもいい。
 『Conturing the Whirlpool』と『How to Dismantle Virginity』を超える作品を待ってます。
 読めばあなたも待ちたくなるさ。