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あなたの文学には何が必須?『Brilliant Failure』

「Brilliant Failure(ブリリアント フェイラー)」

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 私が最初に触れたラウシズム作品である。
 後書きにて著者自身のエピソードは語られているので、きちんと最後まで読むとすっきりできる一冊。
 タイトルが全部英語なのが、私泣かせだが、どうにか乗り越えたい。
 9作の短編が収められておりどれもなかなか読ませる。ようできちょる。けれどそれはあくまで私だけの感想だ。

『Out of Time』
 ーー問題は自分の人生の外部に、他人の人生が何億通りもの配色で散らばっているという事実なのだ。都市部の満員電車に乗り込むと松永は時々気分が悪くなるーー

 零細出版社の社員である松永が、数年前の同窓会で地元に帰り、久しぶりに再会したさほど仲良くもなかった高見さんとの会話を回想する。
 作中で紡がれるのは、些細なしかし登場人物それぞれにとっては割と重大な絶望と行き止まり感だ。
 私は大学に行ってないし、同窓会にも出てないから、この話に関しては「あるある」は一切なく、ほとんどファンタジーとして読んだ希有な読者かもしれない。
 しかし、大学で県外に出て、たまに帰って来た地元の呑みの席で、ついうっかり弾けすぎたり、たいして仲良くなかった人に、割とぶっちゃけた話をしてしまう感じはわかる。仲良くなかったから逆に話せるというかね。
 公園の障害者用トイレという場所の使い方がうめぇなぁと感心した。
 働き出せば、松永が感じる「人生的な孤独」とは無縁では居られないだろう。

ーー人生的な孤独だ、と松永は漠然と考える。自分が首を巡らせて把握出来る領域より外の世界は、干渉はしても侵入は出来ない。ーー

 あくまで状況を描き、登場人物の内面に過度に踏み込まないことを意識しているのがよくわかる一作目。

『Retold』
ーー秋野は自分が主演する、台本の無い物語を演じていたーー
 少年(13)と少女(12)の逃避行に少し関わった秋野と関わってないがなんかむかつく飛騨とのやりとりで、逃避行の物語を創作してゆく。
 メディアで報じられる悲惨なニュースの断片的な情報は、ときに無駄な想像力を発揮させられる。こういう話なんじゃないか? いや、もっと裏の事情があって、とか。
 そういう、想像力を作中人物に駆使させることが、どちらかというと批判的に描かれる。
 この入れ子構造を楽しめたなら、あとの話はだいたい楽しめるだろう。
 (しかし、話は全然変わるけれど、腐女子の想像力ってすごいよね。たまに感心するわ) 

『Vacant World』
ーーだからあいつのビーフシチューは命の味がするんよ……と小牧は付け加えたーー

 高校生の浩輝は先輩の小牧から手伝いを頼まれる。何の手伝いかって? いつものやつだよ。
 女の先輩・小牧が話す大阪弁が心地よい。

『Commonplace』
ーー「先送りは面倒になるだけだよ』母親の鋭い言葉がグッと脳髄に響いて、萩野は表情を歪めて視線を落としたーー
 誰しもに刺さりそうな母親の言葉ではある。
 『Retold』同様、突発的な同棲生活が描かれるが、なんかもうよくわかんねえな、という投げやりな気分にさせられて、その気分が主人公が抱くやつと同じ物のような気がしてくる。

『Vomit』
ーー担任達はマニュアル通り「お亡くなりになられた」という表現を使ったが、それは「首を括られて自殺なされた」という奇妙な尊敬語を使うことが余りにも憚られたからでもあるーー

 一人の女生徒の自殺から玉突き事故みたいに学校内に広がっていく影響を多面的に描写する。
 群像劇に近いかもしれない。しかし、よく死ぬ。

 ニュースの世界の向こう側ってこんな感じかも知れない。


『99 Luftballons』
ーー私の母親は、もう四十一歳だってのに、パートではたらいていたコンビニのアルバイトだった大学生に色目をつかわれて、だまされて、二十万とられて、それを知って逆上した父親にフライパンでなぐられて救急車で病院にはこばれていったーー
 段落がほとんどなく、一息でバーっと語られる少女の一人称。   
 著者が「しんどくなったら読み飛ばしてください」と書いているが、ここまで読めたあなたならなんてことないだろう。文フリクラスタはそこまでやわじゃない。と思う。むしろ、そういうエグい少女漫画的な作品が好きな人も居ると思うんだけれど。

 

『Fragile』
ーー「裕一はきっと殺されたんだよ」ーー
 この辺で、著者を心配し始める。割と本気で。
 また死ぬの?
 三人の少年と一人の少女。四人組の関係性がジリジリと歪んでゆく。その過程が、むしろ心地よくなってくるまである。
 あとがきにもあるが、文芸部内で評価が分かれたというのは納得。あなたはどっち派だろうか?
 この小説はうまくいってる? いってない?  私の評価?
 あなたが読んでからにしてくれないか。

 

『Apparition』
ーー本当に波の音だけなのだ。松原を走る少年も居なければ、遠くで汽笛も鳴らないし、海鳥は何処かに隠れている。電車は永遠にやってこないーー
 ここだけとても平和である。のんびりと、海の近い駅でこの話を読みたい。
 ここだけ天野こずえ「ARIA」である。

『Underneath the Sky』
ーー二重に折り畳んだ青いビニールシートを地面に敷いて、そこにペタンと座り込んで、膝の上に無造作に広げた布切れを、彼女は黙々と裁断していたーー
 奇妙なボーイミーツガールである。もしも、野外で布切れを黙々と裁断する女性がいたら、優しく見守ってあげてほしい。たぶん、色々と事情があるのだ。でも、なんというか、やる気がなくなったときとか逃避のように、一つのことに没頭したくなる感じは理解できる。そういうのが理解できる人しか文フリの純文学サークルのところには来ないとは思う。

 いかがだったろうか。
 ここに掲載された作品群に大きな関心と期待をよせて頂けたら幸いである。

 もしこの作品集を読んで何か足りないと感じるのであれば、それはあなたが理想とする文学に必要な要素だ。